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養護教諭のメンタルヘルスリテラシー

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今回は文献紹介を通して、養護教諭の先生方のメンタルヘルスリテラシーについて

あれこれ語っていきたいと思います。


紹介する論文

小川光江ほか(2025)養護教諭のメンタルヘルス・リテラシーの実態と関連要因.日本精神保健看護学会誌,34(1),p.21-29.



* そもそも養護教諭の先生ってどれぐらいいるの? *

Gemini先生に聞いたところ、約4万人とのことでした。教育分野で働いている心理師が約2万人ということで、倍ぐらいの人数。しかも心理師と違って常勤職であり、学校内でのお役割はかなり大きいと感じます。優秀な養護教諭の先生がいれば、SCの仕事の半分は無くなりそうです。



* メンタルヘルス・リテラシーって何? *

この論文でのテーマになっているのが、養護教諭の先生方のメンタルヘルス・リテラシー(Mental Health Literacy; MHL)ということことですが、本論ではMHLを以下のように定義しています。


MHLは「精神疾患に関する認識や管理、予防、援助についての知識や考え」であり(Jorm, 2012)、自殺予防に関する知識は「自殺に関する予防や前兆、神話についての考え」である(高橋ら, 2021)。

どうやら、こうした知識があると、偏見(スティグマ)なく相手を見られるようになるし、メンタルヘルス支援の自信をもって、自殺リスクのある人に積極的に関わる可能性が増えるらしい。


NCNPでStan Kutcher博士のMHLの定義が紹介されていますが、その中では以下のように書かれています。


1. 心の健康を維持するために何をすべきか理解していること 2. 精神疾患の症状とその対処方法を理解していること 3. 精神疾患に対して偏見を持たないこと 4. 精神的な問題で困った時に、いつ、どこで助けを求めるのかを理解していること。その相談先で何を期待できるのか、何が得られるのかを理解していること

これを見ると、そもそもMHLというものが、偏見を持たないことであり、困っている人が何を求めているかを理解できるということになるらしい。これをみると、対人援助に関わる人は、間違いなくMHLが高い方が良さそう。



* 養護教諭のMHLの実態! *

本論に話を戻すと、養護教諭の先生はMHLが高い方が良いけど、現状としてはどうなっているのか。正直なところ、心理師でもMHLが高くない人は結構います。MHLを高めるというのは、しっかりとした研修と実践が欠かせないので、仕事をしているだけで自然に身につくという類のものではないと思う。


ということで、まずは研究方法。


中高一貫校1021校を対象とした大規模調査。質問項目は、日本語版MHL尺度、日本版自殺の知識尺度、日本語版Linkスティグマ尺度を用いたとのこと。


ちなみに日本語版MHL尺度は、以下から内容を見られます。


MHL尺度の内容を見ていると、例えば以下のような質問があります。

20. 精神疾患のある⼈は、その気になれば精神疾患を克服することができる。

当事者家族の方と話していると、「気持ちの問題だ」という方もたま~にいらっしゃるので、こういった認識もあり得ると思いますが、専門職ではあんまりいないかなと感じます。


調査票の回収率25.9%、有効回答率75.8%ということで、専門職対象の調査研究としては回収率が低い…。


調査研究だからしょうがないと思うけど、心理師の活動調査とかは回収率50%~60%はあるので、もうちょっと回答してほしいなと心から思います。たぶん心理師は調査研究の大変さもよく分かってるから、なるべく回答している方だと思う。


さて、次は研究結果。


基礎統計量として、MHLの平均得点は119.32で、先行研究における医療系学生の平均118.0よりも若干高かったとのこと。尺度自体の点数範囲は最小35~最大160。自殺の知識尺度は23.04で、先行研究の大学生平均16よりもわりと高め。スティグマ尺度は29.98で、先行研究の大学生平均31.95よりも若干低め。


そしてMHL尺度と各尺度との分析結果。


表3 日本語版MHL尺度と各尺度の重回帰分析


MHL尺度(β標準偏回帰係数)

自殺知識尺度

.270***

スティグマ尺度

–.178**

精神科受診歴(本人)

.133*

精神科受診歴(家族)

.024

精神科受診歴(友人)

–.041

専修免許

.093

看護師資格

.078

教育課程中の精神保健の授業

–.052

自殺予防教育の受講

.191**

情報収集(書籍)

.217*

情報収集(研修)

.036

情報収集(インターネット)

–.075

自殺予防ガイドラインの認知

.204**

精神疾患の児童生徒の支援経験

.057

自殺対応経験

–.002

スクールカウンセラーの配置

.014

精神科医療機関との連携

.153*

職場内の相談相手

.179**

調整後R2

.327

*がついている赤字の項目が、MHL尺度を高めるという結果。



* 自殺予防の知識はMHLと関連 *

結果表からは、自殺予防の知識がわりと大事だということが読み取れるわけですが、本論でも、その辺に言及されています。とくに、


また自殺対応経験は50代以上の年齢階級の者に多い傾向にあったが、MHLと自殺知識は経験年数や年齢階級とは関連していなかった。そのため、養護教諭のMHLは、経験年数や在学中に受けた教育、自殺対応経験のみで高まるものではないと考えられた。

とのこと。冒頭で触れましたが、ただ仕事をしているだけでMHLが高まるということは、経験上ないと思っています。恐らく自殺対応をした方の中でも、そこからいろいろ調べたり、相談したり、問題解決的に動いたかどうかで、MHLが高まるかどうかが変わってくるのではないでしょうか。


本論ではさらに、以下のように続けています。


しかしながら、MHLと関連が見られた情報資源は書籍(β=.217)のみであり、養護教諭が精神保健の知識を得るための情報が少ない可能性もあるため、教育資源を充実させていく必要があると考えらる。

私も養護教諭の先生が受ける研修に同席したときに、MHLの情報が少なく、全体的な知識が不足していると感じました。すごく勉強熱心な方が多いのですが、現場に必要な情報が少なく、やや偏っているように感じます。


まぁ研修を組んでいる県教委などが、そもそもMHLを身につけていないということがあるので、そりゃ偏ってしまうのも無理ないかな、とも思います。


そもそも自殺念慮とはどういう感情なのか、自殺とはどういう現象なのか、死にたいと訴えてくる行動はどういう機能をもつのか、などなど、真面目に考えると難しいのが自殺というテーマですから、そこを避けずに愚直に学んでいくことは、死にたいと生徒に言われる可能性が高い養護教諭の先生だからこそ、必要不可欠なことではないかなと思います。



* 精神看護学を学ぶということ *

本論では、今後の展望として、非常に大事な示唆を与えてくれています。


養護教諭の先生は、もともと看護師だった方がされている場合もあります。本論の対象者でも、30.8%が看護師資格をお持ちだったとのこと。そして、どうやら養護教諭の養成課程では、精神看護学が必修ではないようです。


調べてみると、大学のカリキュラム内で精神保健を必修科目にしているところはいくつかありました。ただし、いずれにしろ1単位~2単位程度なので、卒後研修は必要な領域だとは思います。



看護師はそもそも厚労省の管轄で、養護教諭は文科省の管轄なので、管轄の違いがカリキュラムに表れているような気もします。ちなみに職域が多様な器用貧乏の公認心理師は、厚労省と文科省の共同管理資格になっており、カリキュラムにもそういうスタンスが表れています。


個人的には現実的でないと思いますが、自死が増え続ける子どもの専門職として、養護教諭の精神保健の知識を必修化し、さらに拡充していくとしたら、厚労省と文科省の共同管理にして、資格試験でもその辺りを問うことになりそう。うーん、ちょっとそれは難しいかな…。


本論でも、その辺りは模索していく必要がある、という意見に留めていました。



* まとめ *

今回は養護教諭の先生方のメンタルヘルスリテラシーをテーマとして取り上げてみました。課題はありつつも、期待は高いと思います。卒後教育で良いので、自殺対策の研修や、精神医学に関する入門的な研修など、継続的に養護教諭の先生が、現場で必要な知識が得られるような機会が、もっと増えると良いなと思います。


最後に宣伝ですが、私たちの研修は養護教諭の先生方にも学んでいただけるように、分かりやすく工夫しております。興味がある方は、お申し込みください。


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* 引用・参考文献 *

小川光江ほか(2025)養護教諭のメンタルヘルス・リテラシーの実態と関連要因.日本精神保健看護学会誌,34(1),p.21-29.

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