米国における子どもたちのうつ病治療の変化について
- 和-conne代表 佐藤

- 10月4日
- 読了時間: 5分

今回は米国での研究成果について文献紹介をしながら、
日本での遠隔医療の可能性について考えてみたいと思います。
下記は紹介する論文
J.R. Cummings, X. Hu, I. Graetz, J. Marchak, C. Ramos, X. Ji, "Health Care Setting and Minimally Adequate Depression Treatment Among Publicly Insured Children," JAMA Network Open, vol. 8, no. 8, p. e2528345, 2025. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.28345

*文献紹介
今回紹介するのは、子どもたちのうつ病治療と遠隔医療について書かれた米国での研究論文です。子どものメンタルヘルスの問題の中でも、うつ病は一般的な精神疾患の一つです。効果的な治療法はありますが、米国でもすべての子どもが適切な治療を受けられているわけではありません。米国では、医療サービスへのアクセスを阻む障壁として、医療機関までの距離や交通手段の問題、家族のスケジュールの都合などがあるようです。日本の場合は、子どもに関する医療資源の少なさが、ひとつ挙げられるかと思います。
こうした問題を背景として、この研究では、公的医療保険に加入しているうつ病の子どもたちを対象に、COVID-19パンデミック前(2016年〜2019年)とパンデミック中(2020年)における医療提供体制の変化と「最低限適切な治療」の受診がどう関連していたかが調査されています。
要するに、パンデミック後にICT化が加速したことで、医療へのアクセスがどれぐらい改善したのか、というようなデータになるようです。
📈 パンデミックによる医療提供体制の大きな変化
ざっとまとめると、以下のような結果だったようです。
遠隔精神医療(Telemental health)の利用が急増:パンデミック前に遠隔精神医療を一度でも利用したことのある子どもの割合は4.5%だったが2020年には49.8%にまで急増。
医療機関での対面診療の減少:診療所でのみ治療を受けていた子どもの割合は、パンデミック前の76.8%から、2020年には43.1%に減少。上記内容が直感的に分かりやすいのが下図。

🩺 遠隔医療がうつ病治療の質を向上させた
論文の中で何回も出てくる「最低限適切な治療」というのは、以下のいずれかを満たすことと定義されています。
診断から12週間以内に少なくとも4回の精神科受診があること
過去の研究でも4回の受診という基準が使用されており、小児に対する短期介入が4セッション以内にうつ病症状の軽減につながる可能性を示唆。
診断から144日以内に少なくとも84日分の抗うつ薬処方を受けていること
少なくとも4回の精神保健受診と最小限の適切な薬物療法のいずれか、または両方を受けていること
これが最低限適切な治療ということにまずびっくりします。日本ではどれぐらいの子どもが、この最低限必要な治療を受けているのか、かなり疑問です…。
2020年のデータでは、遠隔精神医療を利用した子どもたちは、診療所で対面治療のみを受けた子どもたちよりも、最低限適切な治療を受ける可能性が大幅に高かったとのこと。
医療提供場所 | 最低限適切な治療を受けた子どもの割合(2020年) |
診療所のみ | 32.1% |
遠隔医療を一部利用 | 50.9% |
遠隔医療を主として利用 | 54.5% |
遠隔医療を利用した子どもたちが、最低限適切な治療を受けやすかった主な理由は、少なくとも4回の精神科受診を達成する可能性が高かったから。
これは当事者や当事者家族にとっては、本当に重要なところかもしれない。受診するっていうだけでどれぐらい大変なことか、実は医療従事者が十分に想像できていない場合がある。高速使って数時間運転して何とか通ってる場合だってある。こうした移動が必要無くなるのは、本当に大きいと思う。
対面の価値ももちろん大きいから、重症例は対面でないと難しいとは思うけど、軽症者はそのハードルを越えられないで、未治療になり、結果的に重症化して通院するようになることもある。米国では、それが保険料として跳ね返るから、本気で改善しようと戦ってる感じがする。日本は税金でカバーしているから、その辺が外国との大きな違いかもしれない。
🌟 まとめ
今回は論文を紹介しつつ、遠隔医療のあり方を考えてみました。スクールカウンセリングをしていても、遠隔でサービス提供すればいいのにと、いつも思います。SCはあくまで行政のサービスなので、行政が「遠隔も対応しましょう」とならないと変わらないところです。
文科省の動きによって、すべての子どもにタブレット端末が貸与されたわけですが、こうした動きに授業以外のサービスはまったく追いついてないように見えます。「SCも家庭訪問できるのが強み」みたいに言いますが、タブレットあるなら家でTeamsなりZoom開いてやればいいわけです。この辺の柔軟性が欠けているのが、民間と行政の違いだと思います。
日本でも、遠隔医療は今後、増えてくるような気がします。初診は対面、それ以降は遠隔とか、いろいろあって良いかなと思います。それに合わせて、SCとか心理療法とか、コメディカルのサービスの遠隔化も整備していった方が良いのではないかなと、個人的には思っています。
またこの辺は、メンタルヘルスの遠隔サービスについての企画などを行っていく中で、いろんな人と話し合えたらなと思っているところです。
* 引用文献 *
J.R. Cummings, X. Hu, I. Graetz, J. Marchak, C. Ramos, X. Ji, "Health Care Setting and Minimally Adequate Depression Treatment Among Publicly Insured Children," JAMA Network Open, vol. 8, no. 8, p. e2528345, 2025. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.28345



