日本と台湾の国際比較!スクールカウンセラーの支援システムについて
- 和-conne代表 佐藤

- 10月12日
- 読了時間: 8分

今回は日本と台湾のスクールカウンセラー制度の国際比較研究をもとに、
あれこれ考えてみたいと思います。
紹介する論文
邱冠寧ほか(2023).スクールカウンセラーの多職種連携及び協働における課題と展望-日本と台湾の支援システムの比較を通して.東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース紀要,46,p.113-120.

* 台湾について *
はじめに台湾について概観してみたいと思います。面積は約3万6千km²で、日本の10分の1ほど、九州と同じくらいです。2023年の名目GDPは7560億米ドルで、世界22位とのこと。日本の約5分の1の経済規模です。ちなみに日本のGDPは2024年時点で4兆26億ドル。1人当たりのGDPでは、日本や韓国と同じ水準とのことで、非常に高い水準にあるようです。もう1人当たりのGDPは、日本は普通に追い抜かれていますね…。
台湾 $33,000〜34,000前後
日本 $32,000〜33,000前後
韓国 $34,000台後半保健制度としては、「全民健康保険」という国民皆保険制度が1995年から実施されているようです。2004年からICチップ入りの健康保険証が使われていて、診察・検査・投薬などの情報がデジタルデータとして記録・管理されているようです。医療サービスの自己負担は、大病院ほど高く設定されているようです。ただし、かかりつけ医を通さずに大規模病院を受診できるフリーアクセス(easy access to care)が中心とのこと。
日本もフリーアクセスですが、最近は紹介状ないと受診を受け付けない大規模病院も増えてきた気がします。
台湾の保険制度とフリーアクセス、ケアの継続性の話は、下記にまとまっています。
国民皆保険、フリーアクセスという医療制度下においてもケアの継続性を保つことは「避けられる」入院を減らす(北海道家庭医療学センター)
* 日本のスクールカウンセラー制度 *
簡単に、日本のスクールカウンセラー(SC)について。日本では1995年(平成7年)にSCが全国配置されました。一応、資格要件が規定されていて、「臨床心理士または精神科医」「関連する領域の大学教員である者、またはそうであった者」に限定されているようです。
本来の運用としては、相当に専門性が高い専門職が就くべきものとして規定されているわけですが、実際はそんなことはなく、「スクールカウンセラーに準ずる者」が配置されています。
* 台湾のスクールカウンセラー制度 *
台湾では、日本のSCに相当する役職が2種類あるようです。
①専任補導教師:児童生徒の生活指導や学習指導、進路指導などの「発展性補導」に加えて、学校不適応を抱える児童生徒への心理相談を行う「介入性補導」を主な業務としている。
②専任補導人員:「介入性補導」を行いながら、精神障害や非行等の重大な不適応を抱える児童生徒に対して、心理療法や専門機関へのリファー等を行う「処遇性補導」を主な業務としている。
①補導教師は、教員を出自の人が多く、②補導人員は、臨床心理士などの専門資格が必要とのことです。台湾では、この2つの役職者が協力して支援を行うことが期待されているようで、日本との違いとしては、①補導教師も心理相談を行っているところで、日本のSCが行っている業務の一部を分担しているところ。
日本では、スクールソーシャルワーカーや養護教諭の先生方が、心理相談的な役割を担っているように思うので、台湾と違った形ではあるけれど、それなりの役割分担があると思う。ただし、その線引きは台湾のように明確ではないし、連携も十分にはなされていないと思う。

* 日本「チーム学校」vs台湾「三級補導(WISER-2.0モデル)」 *
日本では、生徒指導提要などで、「チーム学校」という言葉で、多職種連携に基づく支援体制が提唱されています。
本論では、チーム学校は以下のように紹介されています。
チーム学校とは、「校長のリーダーシップの下、カリキュラム、日々の教育活動、学校の資源が一体的にマネジメントされ、教職員や学校内の多様な人材が、それぞれの専門性を生かして能力を発揮し、子どもたちに必要な資質・能力を確実に身に付けさせることができる学校」を表している(文部科学省,2016)。
その中で、SCには以下のような活動が期待されているようです。
(欧米諸国と比べて多くの役割を担っている)教員の負担を軽減しながら、適切に連携・協働して、十分な支援活動を実施することが期待されていると捉えられる。
他方、台湾の「三級補導」は、資格のところでも触れましたが、支援を以下の3つの段階に分けています。
1.発展性補導:予防
2.介入性補導:早期発見・早期介入
3.処遇性補導:悪化防止・対処
これらを①補導教師及び②補導人員が、それぞれ分担・協力する形式。ここだけみても、いかに整備されているか、違いが明らかです。
正直なところ、「細かいところは現場で決めて」というのが日本の運用に見えますが、現場の感覚では「もう少し方針を具体化してもらわないと困る」わけです。何の仕事を誰がするのか。連携の基本は、「自分の仕事をきっちり行う」ことだと思うわけですが、日本の方針は、連携に焦点が当たりすぎていて、介入は医療任せという感じが透けて見えます。医療に繋ぐだけが連携ではないわけです。
本論でも、SCの運用上の問題は議論されていて、「SCの役割の不明瞭さ」が日本の問題にあると指摘しています。
* SCが実際にできることと期待されること *
本論では、以下のような葛藤があると述べられています(下表)。
SCに期待されること | SCが実際にできること |
|---|---|
精神疾患を抱える児童生徒への直接支援 |
|
こうした期待と実際にできることのズレが、現場の混乱に繋がっている、SCとの連携のしにくさに繋がっているとのこと。
本論に対して、ちょっと反論があるとしたら、右列のSCにできることの内容が、違うかなと思います。もちろんやらないわけではないですが、養護教諭の先生もできますし、(4)治療薬の作用の確認は、保護者が基本的にすることで、保護者に普段の様子を聞かないと分かりません。
何より重要で根本的な役割である、困りごとについての心理アセスメント、適切な心理教育、そして心理的介入が含まれていません。教員がSCに直接支援を期待するのは当たり前ですし、それができないのであれば、学校にいる意味はないのではないか、と思ってしまいます。
文科省が規定するSCの主な職務には、直接的な支援も一応入っていると思います。恐らく専門的支援のところに、本来は行動療法、トラウマケア、リラクゼーションなどが入っても良いと思うわけですが、そうした文言を入れていないあたりが、不明瞭さを生み出しますし、現場の混乱に繋がるのだと思います。
相談業務:児童生徒、保護者、教職員からの相談に応じ、心理学的な観点から助言や援助を行います。 予防的対応:ストレスチェックや授業観察などを行い、問題行動を未然に防ぐための対応をします。 危機対応:災害や事件、事故など緊急事態が発生した際に、被害を受けた児童生徒の心のケアを行うなど、迅速な対応をします。 専門的支援:心理検査を用いて児童生徒の状態を把握・査定します。 研修・助言:教職員に対し、カウンセリング能力の向上や生徒理解を深めるための研修や助言を行います。 連携:医療機関や児童福祉、司法などの専門機関、および教職員と連携し、チームとして児童生徒を支援します。
台湾のシステムが良いのは、やるべきことが明確化されているので、相互の仕事で補完がしやすいことにあるようです。
日本でも、「ここの確認はやっときますね、こっちは教育相談の中でお願いします。受診勧奨はどっちでやります?」みたいなやり取りはありますが、システム化されている方が、圧倒的にやりやすいです。
* 台湾の支援システムの課題 *
良いところばかりではないということで、最後に触れられているのが、台湾システムにおける課題です。以下のような課題があるとのこと。
(1)専任補導教師と担任教員との間に、防衛的・競争的な関係が生じることがある。
(2)専任補導教師と補導人員との間に、対抗心が生じることがある。(1)のような問題は、日本でも多少なりある気がします。担任の先生の子どもへの関わり方について、コーディネーターの先生が口を挟むようなことは、おかしいことではないですが、場合によっては担任の先生が防衛的になることもある気がします。
(2)については、補導人員(日本でいうSC等の専門家)の方が権威的に見られやすいことによる対抗心が要因とのこと。日本もSCの専門性は一定の評価を得てますが、日本は良くも悪くも権威に従うことに慣れているためか、対立することは無いように感じます。まぁそもそもSCに権威など感じていない人がほとんどな気はします。

* まとめ *
ということで、長くなりましたが、日本と台湾のSCのシステムの違いに触れながら、あれこれ考えてみました。
まとめる中で、台湾のシステムの中で、とくに役割の明文化はすぐにでも取り入れられる部分だと思うので、こうした国際比較研究が、もっと進むと良いなと感じます。
日本では、とくに養護教諭の先生のコーディネーションについて、期待される部分も大きいと思うので、台湾と同じシステム設計はできないと思いますが、文科省には、もう少し互いの専門性を明確に打ち出すことで、連携しやすい土壌を整えてもらえるとありがたいなと思います。
支援の質のバラつきを抑えて、支援の質を一定のものにしていくのが、税金を使ったサービスの在り方かなと思っています。一定の質とは、どんなところに落とし込むべきかについて、私たちも議論しながら、探っていけるとよいなと思っています。
* 引用・参考文献 *
邱冠寧ほか(2023).スクールカウンセラーの多職種連携及び協働における課題と展望-日本と台湾の支援システムの比較を通して.東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース紀要,46,p.113-120.



