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広島大学発「MIRaESプログラム」を見学してきました!

  • 6月15日
  • 読了時間: 6分

更新日:8月12日

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今年5月、広島大学の尾形先生の研究チームが高校生向けに開発した心理支援プログラム

「MIRaES(ミライズ)プログラム」を見学してきました!



* はじめての出会いと衝撃 *

このプログラムについて初めて知ったのは、一昨年の12月に広島で開催された認知療法学会ワークショップでした。尾形先生やゼミ生とは以前から交流があったので、「最近の取り組みを聞いてみようかな」くらいの気軽な気持ちで参加しました。


実は、臨床心理学の分野では、小中高生を対象としたさまざまなプログラムが開発されています。MIRaESプログラムも、青年期の問題行動の理解と支援の一環として開発されました(尾形ほか,2018)。しかし、実際にプログラムを実施できる人が限られているため、メンタルヘルスに関する予防介入の普及が進まないのが今も昔も課題になっています。


昔から青年期への予防的介入は研究されていて、最近のものでいうと、例えば小学生対象のメンタルヘルス予防プログラム(Universal Unified Prevention Program for Diverse Disorders:Up2-D2)というものが開発されており(Ishikawa et al.,2019)、実施は1日研修を受けた教師が担当するという構成になっています。


教師がプログラム実施できれば、教育制度の中で予防ができる!


とはいえ、すべてを教師が実施するのは、やはり敷居が高いようにも思えます。予防教育が効果的な対象は、抑うつ症状がなど高い方なわけで、「本人への伝わり方」が大事になるからです。そこは専門知識や介入の工夫がどうしても必要になります。


先ほどの研究の発展形では、中学生のUp2-D2を作成し、教師に2時間の研修のみ行い、12回のプログラムを実施をしてもらっています(中西ほか,2021)。全体的な効果は認められていないものの、抑うつ高群には一定の有効性が認められているため、当然ですが「不調な人ほど予防教育は効きやすい」と言えそうです。


その一方で、教師不足の世の中で、教師の負担をこれ以上増やせないという学校組織の事情もあるだろうと思います。



こうした研究のトレンドがある中で、MIRaESプログラムが特に印象的だったのは、プログラム普及、教師の協力、本人への伝わり方といった重要な要素をバランスよく取り入れている点です。プログラムの導入と最終回を教師が担当していると聞いて、とても驚きました。


最初と最後だけなら負担も少ないですし、私は個人的に心理支援は導入部分がもっとも重要だと考えているので、「これは良い!」と感じました。こうしたバランス感覚を十分に働かせて、学校と協力して運営する発想を持っているのは、MIRaESプログラム以外に無いんじゃないかと思ってます。


現場サイドから見ると、青年期の予防的介入は「研究のためのプログラム開発」という側面が強い気がするので、継続して運営できている点で、他のプログラムとも違いを感じるところです。


それほど先進的な取り組みだと感じました。


「これはぜひ実際に見学しなければ!」と思い、尾形先生にお願いをしたところ、快く引き受けてくださり、いざ広島へ!




* 見学当日:学びの現場で感じたこと *

当日は、MIRaESプログラムを導入している「広島みらい創生高等学校」へ、スタッフ一緒に伺いました。広島みらい創生高等学校は定時制・通信制の学校で、なんとMIRaESプログラムへの参加が必修単位になっているとのこと。定時制や通信制の学校には、心理的な課題を抱える生徒も比較的多く、こうしたプログラムへのニーズが高い現場だと言えます。


さらに驚いたのは、この学校が広島大学の大学院生にとっての実習先にもなっていることでした。大学院生が現場で学びを深められる場としても機能しているわけです。


MIRaESプログラムを実施することの主なメリットを挙げてみると…

  • 認知行動療法の基礎が学べる

  • 学校現場に入り、生徒と直接関われる

  • 学校の先生と協力する際の作法が学べる

  • プログラム実施時に起こる問題とその対処法が学べる

  • 複数人でプログラムを作り上げる協働関係の築き方が学べる


大学の回し者というわけではありませんが、これほど充実した実習機能が備わっている広島大学は、心理学を学ぶ進学先としてとてもおすすめです!


広島大学心理学教室 ホームページ
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広島みらい創生高等学校 ホームページ
広島みらい創生高等学校 ホームページ


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* MIRaESプログラムの内容とは? *

さて、MIRaESプログラムの内容についてですが、まだ未公開の部分もあるため、おおまかにご紹介します。


全12回のプログラムで構成されており、現在も微調整しながら運用しているとのことです。目標設定、対人交流、感情調整、行動変容といったテーマに段階的に焦点を当てて進められます。今のところ、導入と最終回は学校の先生が担当しているそうです。


MIRaESプログラムは認知行動療法に基づいた支援方法ですが、実際の進め方は、さまざまな考え方が取り入れられた柔軟な運用になっていました。学校の先生の個性によって進め方に違いが出ることもあり、先生方にある程度の裁量があるのはとても良いと感じます。


そして、さらに驚いたのは、学校の先生方の生徒を見る力(アセスメント能力)の高さでした。先生方は、授業を進める能力に非常に長けていて、生徒の様子を瞬時に察知し、プログラムの進行にうまく組み込んだり、個別に配慮したり、その場で臨機応変に対応していく姿は、さすがだなと思いました。基本的に心理士は、授業を行うのは専門外なので、なかなか真似できない観察力と瞬発力だと感じました。


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* 感想:プログラムがもたらす学び *

MIRaESプログラムのようなグループ支援は、当然ながら個別の支援とは目的が異なります。どんなグループ支援も基本的には「ストレスなどへの対処法を学ぶ」という形で進みます。学びは、楽しみながら行う方が身につきやすいと考えられます。


しかし、心理的な支援は、必然的に苦手なことや嫌なことを思い起こさせるため、「楽しみながら進めたい」けれども「辛さも感じやすい」という矛盾を抱えている構造になっています。


MIRaESプログラムを見学して特に興味深かったのは、学校の先生がプログラムに参加することで、先生自身が自分を例にして話すなど、場の緊張が和らぎやすいということです。これにより、向き合いにくい話題でも、生徒の警戒心を高めすぎずに進められるのだと感じました。


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個別の支援でも、相手の警戒心を解くことは、建設的な話し合いを進める上で非常に重要です。どんなに優れたプログラムがあったとしても、相手の警戒心が高い状態では、必要な情報が伝わらず、十分な支援にはなりません。


MIRaESプログラムを体験することで、受ける側も、実施する側も、それぞれに必要なことが学べるという点が、とても特徴的だと感じました。



* さいごに *

今回の見学は大変勉強になったわけですが、MIRaESプログラムは残念ながら、まだ正式に公開されていません。出版される日を心待ちにしながら、自分の心理授業などに、MIRaESプログラムの考え方やエッセンスを取り入れていこうと思いました。


尾形先生、広大心理の教員の先生方および大学院生さん、広島みらい創生高等学校の先生方および生徒さん、ありがとうございました!



* 交流した大学の先生方、学校様 *

▽広島大学大学院人間社会学研究科:尾形明子 教授

▽広島市立広島みらい創生高等学校: http://www.miraisousei-h.edu.city.hiroshima.jp/


* 引用文献 *

  • Ishikawa, Si., Kishida, K., Oka, T. et al. Developing the universal unified prevention program for diverse disorders for school-aged children. Child Adolesc Psychiatry Ment Health 13, 44 (2019).

  • 中西智愛ほか (2021).中学生のメンタルヘルス問題に対するユニバーサル予防プログラムの有効性の検討 心理臨床科学, 11(2), 15-23.

  • 尾形明子ほか(2018).青年期の問題行動の理解と支援 広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要, 17, 82-105




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