top of page

若者の完璧主義は、なぜ増えているのか

9月1日
読了時間: 10分

若者の完璧主義は、なぜ増えているのか

― AI時代に育てたい「不完全なまま学び続ける力」―


 「もっと頑張らなければ」「失敗してはいけない」「まだ十分ではない」。一見すると、こうした思いは向上心の表れにも見えます。しかし、ときにはその思いが、自分自身を追い詰めることがあります。


 大学生を対象とした研究では、若い世代における完璧主義が、長期的に高まっていることが報告されています。2026年に公表された研究でも、米国・カナダ・英国の大学生82,939人のデータから、自分自身に高い要求を課す傾向や、失敗への強い懸念、行動への迷いなどが、時代とともに高まっていることが示されました。

 もちろん、これらの研究は主に欧米の大学生を対象としたものであり、その結果を日本のすべての若者にそのまま当てはめることはできません。それでも、高校生を対象に心理教育を行っていると、周囲からのプレッシャーや期待、他者との比較に悩む声に触れることは、日本でも決して少なくないように感じます。それでは、目標を高く持つことそのものが問題なのでしょうか…?


 この記事では、完璧主義と向上心の違い、完璧主義とバーンアウトとの関係、その背景にある社会的な変化、そしてAI時代の教育について、考えていきたいと思います。



1.完璧主義には、いくつかの方向がある


 完璧主義は、単に「自分に厳しい性格」を意味するものではありません。心理学者のHewittとFlettは、完璧主義を次の3つの側面から捉えました。


側面

内容

1.自己志向的完璧主義

自分自身に完璧さや非常に高い基準を求める

2.社会規定的完璧主義

周囲から完璧であることを求められている、と感じる

3.他者志向的完璧主義

他者にも完璧さや高い水準を求める


 なかでも近年の研究で顕著な上昇が指摘されているのが、自分への要求と、「周囲は自分に完璧さを求めている」という感覚です。後者が強いと、評価されないことや期待を裏切ることが、自分の価値そのものを失うように感じられやすくなります。



2.完璧主義と向上心は、どこが違うのか


 完璧主義研究では、しばしば「高い水準を目指す側面(perfectionistic strivings)」と「失敗や評価を過度に心配する側面(perfectionistic concerns)」を分けて考えます。


高い水準を目指す側面

失敗を過度に心配する側面

・高い目標を持つ

・失敗してはいけない

・より良くなろうと努力する

・間違いを許せない

・成長や習得に関心を向ける

・評価されることが怖い

 

・達成しても『十分ではない』と感じる


 前者には、努力や達成を支える適応的な側面があります。一方、後者は不安、抑うつ、強迫症状などの心理的苦痛と、より強く関連することがメタ分析で示されています。ただし、高い目標を持つ側面も、状況によっては苦痛とまったく無関係とは言い切れません。

 大切なのは、「努力しないこと」ではありません。高い目標に向かって努力しながらも、失敗や不完全さを受け止め、必要に応じて目標や方法を調整できるかどうかです。



3.完璧主義は、バーンアウトとどのように関係するのか


 バーンアウトは、単に「どれだけ努力するか」や「高い目標を持つか」だけで決まるものではありません。43件の研究、計9,838人のデータをまとめたメタ分析では、完璧主義の中でも「高い水準を目指すこと」そのものは、バーンアウトとほとんど関連がない、あるいは、むしろバーンアウトの低さとわずかに関連していました。一方で、「失敗してはいけない」「失敗したらどうしよう」と失敗を過度に心配する傾向は、バーンアウトと中程度から強い関連を示していました。


 それでは、なぜ失敗への強い懸念がバーンアウトにつながりやすいのでしょうか。


完璧主義的な懸念

↓

失敗や不足について繰り返し考える

↓

疲弊・シニシズム(学業への冷めた態度)

↓

学業バーンアウト


 大学生を対象とした研究では、完璧主義と学業バーンアウトの関係には、同じことを繰り返し考え続ける「反復的なネガティブ思考」が一部関わっている可能性が示されています。失敗や自分の欠点について考え続けることで、心理的なエネルギーが消耗していくのかもしれません。


 また、時間の経過を追った縦断研究では、完璧主義に共通する「自己批判的な傾向」や「他者からどう評価されるかを過度に気にする傾向」が、その後の情緒的消耗やシニシズムを予測していました。一方で、単に高い目標を目指すという側面は、その後のバーンアウトの変化を予測していませんでした。


 つまり、問題になりやすいのは、目標の高さそのものではありません。「失敗は許されない」「これではまだ十分ではない」と自分を評価し続けることが、心身の消耗につながる可能性があります。高い目標を持つことと、自分を追い詰めることは、必ずしも同じではないのです。



4.なぜ、若者の完璧主義は増えているのか


 若者の完璧主義が高まっている背景を考えるとき、SNSやスマートフォンの影響だけでは説明できません。完璧主義の上昇は、それらが広く普及する以前から始まっていたことが報告されています。研究者たちは、その背景として、市場競争の激化や経済格差の拡大、将来への不安、そして「成功も失敗も個人の努力や責任によるもの」と捉えやすい社会的な価値観などを挙げています。


 2026年に公表された研究では、経済格差の拡大と、「失敗への懸念」を含む完璧主義の急速な上昇との関連も示されました。この研究が示しているのは、社会的な要因と完璧主義の間に関連があるということであり、「経済格差が個々人の完璧主義を直接生み出している」と証明したものではありません。それでも、社会の中で将来への不安が高まり、「一度の失敗が大きな不利益につながる」と感じやすくなれば、「失敗しないこと」を重視する心理が強まることは十分に考えられます。


 つまり、社会の安全性が低いと感じられ、失敗のコストが大きく見える環境では、「失敗しないこと」が一種の心理的な生存戦略になる可能性があります。


 若者の完璧主義の高まりは、単に「以前の若者より努力家になった」という現象として捉えるよりも、「成果を出し続けることで、自分の価値を証明しなければならない」と感じる若者が増えているという社会的な変化として捉える必要があるのかもしれません。



5.AIは、完璧主義をどう変えるのか


 ここからは、既存の研究から直接結論づけられることではなく、生成AIが急速に普及している現在の教育環境を踏まえ、そこから考えられる新しい視点についてお話します。現代では、生成AIを使えば、以前よりも短時間で、正確で、見栄えのよい文章や画像を作れる場面が増えました。それ自体は、学習や仕事を支える非常に便利な技術です。


 しかしその一方で、AIによって「もっと良いものを作れる可能性」が広がったからこそ、次のような考えも生まれやすくなっているかもしれません。


  • もっと早くできたはず

  • もっと正確にできたはず

  • もっと質の高い文章や画像を作れたはず

  • 他の人は、もっとAIをうまく使っている

  • AIを使えば、さらに良くできたはず


 これまでは、時間や技術、知識といった制約が、「ここまでできれば十分」という一つの区切りになっていました。しかし、AI技術によって到達できる水準が上がり続けると、「これで十分」という基準そのものが定まりにくくなります。AIは、作業を効率化し、完成に近づけるための道具ですが、同時に、「もう少し良くできるかもしれない」と考えながら、修正を際限なく続けられる道具でもあります。


 だからこそ、AI時代に必要なのは、単に成果物の品質を高める力だけではないと思います。目的や時間、与えられた条件に照らしながら、「ここまでで十分である」「ここで完成とする」と判断し、作業を終える意思決定力も、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。



6.学校や家庭で育てたいのは、「不完全さを受け止め、前に進む力」


 目指したいのは、子どもに「完璧を目指してはいけない」と教えることではありません。大切なのは、高い目標を持ちながらも、不完全な自分や失敗を受け止め、そこから再び学び始められる力を育てることです。学校教育では、最終的な結果だけでなく、そこに至るまでの過程にも目を向けることができます。


結果だけを評価する見方

学びの過程を評価する見方

100点を取れたか

できなかったことから何を学んだか

間違えなかったか

間違いを手がかりに、どう修正したか

最高の成果物を出したか

限られた時間・条件の中で、どう判断したか


 もちろん、結果を評価することが悪いわけではありません。しかし、結果だけが繰り返し評価される環境では、子どもは次第に「成果によって自分の価値が決まる」と考えるようになるかもしれません。良い結果を出したときだけ認められ、うまくいかなかったときには、自分自身を否定されたように感じる――。こうした経験が重なると、「失敗すること」そのものが怖くなっていきます。一方で、失敗したときにも関係が切れず、努力の仕方や試行錯誤、修正の過程を見てもらえる経験は、「成果」と「自分自身の価値」を切り離す助けになります。そのため、大人が子どもに関わるときにも、結果だけを問うのではなく、学びの過程に目を向けることが重要です。


 「なぜできなかったの?」ではなく、


  • 「どこまでできた?」

  • 「何が難しかった?」

  • 「うまくいかなかった原因は何だと思う?」

  • 「次に試すなら、何を変えてみる?」


 このような問いかけは、失敗した子どもを評価するためのものではありません。不完全な状態から、もう一度学びを始めるための支えになります。



7.まとめ――未完成な自分のまま、学び続ける


 これからの教育に求められるのは、子どもをより高い水準へ到達させることだけではありません。大切なのは、未完成な自分のままでも、他者とつながり、試行錯誤を重ねながら、学び続けられる力を育てることです。特にAIによって「もっと早く」「もっと正確に」「もっと質の高いもの」を作れる可能性が広がる時代には、次のような力が、これまで以上に重要になるかもしれません。


  • 目的や状況に照らして、「今回は70点で提出する」と決める力

  • 失敗や試行錯誤を、一人で抱え込まず他者と共有する力

  • 完成していない状態でも、他者と協働する力

  • 成果の良し悪しと、自分自身の価値を切り離す力


 これらは、「より良い成果を出す力」とは少し異なる力です。「もっと良くできるかもしれない」と考え続けるのではなく、目的や時間、状況を踏まえて「ここまでで十分」と判断する力です。失敗や不完全さがあっても、自分を責め続けたり、一人で抱え込んだりするのではなく、そこからもう一度、学び始めていけばよいのです。


 思うようにできていない自分を排除せず、その状態も受け止めながら、次の一歩を選び取れることが、変化の大きい時代を生きるための土台になるのではないでしょうか。



8.引用・参考文献

最新記事

すべて表示
教育現場で活かすメンタルヘルス・リテラシー

いつも提出していた課題が出なくなった。授業中、集中しづらそうにしている。  学校で子どもたちと関わる中で「いつもと違う」と感じることがあります。そんなとき、心の健康についての知識があると関わり方を考える手がかりになります。  和-conneでは「教育現場のためのメンタルヘルス実践研修」として、学校での支援に関する6つの研修を開催しました(アーカイブ配信中)。ひとつ目の研修が以下のものです。 「メン

 
 
自分にも他人にも厳しくなってしまうときに

― 完璧主義をゆるめる「2つのコンパッション」 ―  「もっと頑張らなければ」「失敗してはいけない」「こんなこともできない」。  こうした言葉を、「自分」に向けてしまうことはないでしょうか。ときには、その厳しさが、「身近な人」や「子ども」に向くこともあります。より良くなってほしいという期待が、いつの間にか、自分や相手を追い詰める言葉に変わってしまうのです。  前回の「若者の完璧主

 
 
「無理させない」と言われたら:子どもの精神疾患と学校対応

医療機関から「学校では無理をさせないように」と伝えられたとき、学校はどのように対応すればよいのでしょうか。体育は休ませた方がよいのか。行事には参加してよいのか。体調が悪そうなときは、本人に声をかけるべきか、それとも静かに見守るべきか。「無理をさせない」という言葉だけでは、具体的な対応を決めることはできません。 医療機関は診断や治療に関する情報をもっていますが、学校が必要としているのは、「どの場面で

 
 

HOME > ブログ

和-conneロゴ
bottom of page