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自分にも他人にも厳しくなってしまうときに

9月12日
読了時間: 11分

― 完璧主義をゆるめる「2つのコンパッション」 ―


 「もっと頑張らなければ」「失敗してはいけない」「こんなこともできない」。


 こうした言葉を、「自分」に向けてしまうことはないでしょうか。ときには、その厳しさが、「身近な人」や「子ども」に向くこともあります。より良くなってほしいという期待が、いつの間にか、自分や相手を追い詰める言葉に変わってしまうのです。


 前回の「若者の完璧主義は、なぜ増えているのか」では、高い目標を持つことと、失敗を過度に恐れることの違いを考えました。そして、AI時代の教育では、「不完全なまま学び続ける力」が大切になるのではないかと、お伝えしました。


 では、うまくいかないときに、自分や他者を責めず、次の一歩を選ぶにはどうすればよいのでしょうか。今回は、SNSにおける他者との比較に触れながら、自分と他者に向ける「コンパッション」について考えたいと思います。





1.SNSは、完璧主義を強める環境になり得る

 若者の完璧主義の高まりは、SNSだけでは説明できません。欧米の大学生を対象とした研究では、SNSが広く普及する以前を含む、長期的な上昇が報告されています(Curran et al., 2026)。ただし、その結果を、日本のすべての若者にそのまま当てはめることはできません。


 そのうえで、SNSは、他者と比較する機会を大きく増やす環境だと考えられます。合格、就職、資格の取得、充実した休日。次々と流れてくる他者の一場面と、自分の迷いや失敗を含む毎日を比べると、「自分はまだ十分ではない」と感じることがあります。


 

2.比較が「取り残され不安」に変わるとき

 他者と比べて自分の能力や状況を判断することを、心理学では「社会的比較」と呼びます。比較は、自分の目標を考えたり、ヒントを得たりする機会になります。しかし、他者の成果ばかりが目に入ると、不安や焦りにつながることもあります。


 その一つが、「自分の知らないところで、ほかの人は価値ある経験をしているのではないか」という不安です。研究では「Fear of Missing Out(FOMO)」と呼ばれ、他者の動きを常に確かめていたい気持ちを伴うと説明されています(Przybylski et al., 2013)。本稿では、これを「取り残され不安」と呼びます。


 こうした不安が、「自分もやってみよう」を超えて、「遅れてはいけない」「失敗は許されない」という要求に変わると、自分を追い込むことにつながるのかもしれません。考えられる流れを、次のように整理できます。


場面

浮かびやすい考えや反応

1.他者の成果が目に入る

「みんな、うまくやっている」

2.自分の状況と比べる

「それに比べて、自分は十分にできていない」

3.取り残されるように感じる

「自分だけ、機会を逃しているのではないか」

4.自分への要求が厳しくなる

「遅れてはいけない。失敗してはいけない」

5.さらにSNSを確認する

安心を求めて開くと、また比較する材料が目に入る

* 誰もがこの順序をたどるという意味ではありません。大学生を対象とした研究でも、社会的比較や完璧主義と取り残され不安との関連が報告されていますが、原因と結果までは確定していません(Piko et al., 2025)。


 大切なのは、他者と比較しないことではなく、「相手がうまくいっていること」と「自分には価値がないこと」を結びつけず、いまの自分に必要な行動へ戻れることです。そこで役立つのが、次に紹介するコンパッションです。


 

3.コンパッションは、責める前に行動を選び直すこと

 コンパッション(Compassion)とは、自分や他者の苦しさに気づき、その苦しさを和らげるために関わろうとする姿勢や振る舞いのことです。思いやりをもつだけでなく、必要な助けを考え、実際の行動につなげることが含まれます(Gilbert, 2009)。


 完璧主義が強いと、失敗した瞬間に「こんなこともできないのか」という考えが浮かぶことがあります。期待どおりに動かない自分や相手に、苛立ちを感じることもあるでしょう。こうした、とっさに浮かぶ考えを、心理学では「自動思考(Automatic Thoughts)」と呼びます。


 コンパッションを実践するために、最初に浮かぶ考えや感情を、すべて優しいものに変える必要はありません。まずは、「いま、自分を責めている」「きつく言いそうになっている」と気づき、その勢いのまま反応することを、いったん保留します。


 そのうえで、自分や相手の困りごとを少しでも和らげる行動を選びます。たとえば、次のようなことです。


  • ミスに気づいたら、責める言葉を重ねる前に、一度手を止める。

  • 苛立ったときは、声の調子を落とし、相手の説明を聞く。

  • 一人では進められないときは、分からない点を整理して相談する。

  • 疲れ切っているときは、作業を区切り、休む時間を取る。


 自分を無理やり変えようとする必要はありません。気持ちが追いつかなくても、「声の調子」や「次にすること」を少し変えるところから始められます。こうした小さな変化は、コンパッションを日常の接し方として身につけるための練習になります。


 コンパッションは「ミスや失敗を改善しないこと」ではなく、うまくいかなかったときに、自分や相手を責める以外の方法で、必要なことに取り組むためのスキルです。


 

4.自分へのコンパッションで、次の一歩を支える

 苦しいときの自分に向けるコンパッションを「セルフ・コンパッション」と呼びます。心理学者のNeffは、主に次の3つの要素から説明しています(Neff, 2023)。


要素

日常の言葉で言うと…

自分への優しさ

失敗した自分を責め続けず、必要な助けや休息を与える

共通の人間性

「失敗するのは自分だけ」と孤立せず、誰にでもうまくいかないことがあると捉える

マインドフルネス

考えや感情にのみ込まれず、「いま焦っている」「自分を責める考えが出ている」と気づく

 

 たとえば、「学校の課題が全部できていないから提出できない」と立ち止まることがあります。そのときには、できた部分を持って先生に相談し、残りをどう進めるか話し合うことができます。不十分なところがあっても、それを優しく受け止めて、そこからできる行動を増やしていくことは、セルフ・コンパッションに繋がります。


 では、自分に優しくすると、努力しなくなってしまうのでしょうか。ここで言っている「優しさ」は、決してミスをなかったことにすることではありません。ミスを修正したり、謝ったり、やり方を変えたりするために必要な支えを、自分に向けるということです。


 セルフ・コンパッションの影響としては、思春期の541人と成人515人を対象とした研究では、セルフ・コンパッションが高い人ほど、苦しさにつながる完璧主義と抑うつ症状との結びつきが弱いことが示されています。*一時点の質問紙調査であり、練習によって完璧主義や抑うつが改善すると証明した研究ではありません(Ferrari et al., 2018)。


 セルフ・コンパッションを身につけて、完璧主義をゆるめることは、高い目標を捨てたり、厳しい考えを完全に消したりすることではなく、完璧主義に従って自分を追い込むかわりに、必要な行動を選べる余地をつくることです。


 

5.他者へのコンパッションで、不機嫌な反応を保留する

 完璧主義は自分にだけ向くとは限りません。「普通はこれくらいできる」「何度も言ったのだからできるはず」。こうした要求が身近な人に向くこともあります。親子のやりとりでも、期待や心配が強いほど、子どもの失敗にきつく対応してしまうことがあるのではないでしょうか。


 他者へのコンパッションでは、苛立ちをそのまま言葉や態度に出すことを、保留します。苛立ちを感じてしまったこと自体を責める必要はありません。一呼吸置く、声の調子を落とす、落ち着いて話せるまで少し時間を置くなど、相手への対応の仕方を調節します。


 たとえば、親子関係で子どもの宿題が終わっていないとき、「何回言えば分かるの!」と言う前に、「どこまでできた?」「どこで止まっている?」と聞いてみます。問題が分からないのか、量が多くて手をつけられないのか、疲れているのかによって、対応は変わります。


 事情が分かれば、「最初の問題を一緒にやる」「取り組む量を区切る」「先生への相談を手伝う」といった選択肢が見えてきます。子どもの内面を決めつけず、しっかり確かめてから関わることが大切です。


 もちろん、危険な行動を止めたり、守るべきルールを毅然と伝えたりする必要がある場面もあります。そのような場合でも、問題行動について注意や指導をしつつ、相手の気持ちに理解を示すコンパッションは、両立することができます。たとえば、「腹が立っても物を投げることは止めよう。何があったかは、落ち着いてから聞くよ」など。


 相手を支えるために、自分がすべてを引き受ける必要もありません。「今日はここまでなら手伝えるよ」と限界を伝えたり、別の人に助けを求めたりすることも、支えを続けるために必要な対応です。


 人はいつでも落ち着いて関われるわけではありません。強く言いすぎたことに気づいたら、相手に謝罪をして、話し直すことができます。失敗しない関係を目指すだけでなく、失敗しても関わり直せることが、大切なのだと思います。


 

6.コンパッションは、日常の中で練習できる

 自分や相手に向けるコンパッションを育てるためのプログラムもあります。その一つが、スタンフォード大学の研究・教育センターCCAREで開発された「CCT(Compassion Cultivation Training)」です。呼吸や注意を整える練習、瞑想、対話、日常での実践などを組み合わせて学びます。公式には8週間のプログラムとして紹介されています(CCARE, 2016)。


 開発初期の研究では、成人100人を9週間のCCTに参加する群と、参加を待つ群に無作為に分けました。その結果、参加群では、自分と他者へのコンパッション、他者からのコンパッションを受け取ることに関する指標が改善していました。

*自己報告による待機群との比較であり、他の方法より優れているかまでは分かりません(Jazaieri et al., 2013)。


 また、セルフ・コンパッションに関連する介入をまとめたメタ分析では、自己批判の低下が報告されています。

*研究の質や結果にはばらつきがあり、効果を一律に考えることはできません(Wakelin et al., 2022)。


 日常的には、次のような小さな練習から始めることができます。


練習

具体的な行動の例

いまの状態に気づく

「焦っている」「きつく言いそう」と気づき、いったん手や口を止める

身体を落ち着かせる

足裏の感覚を確かめ、無理のない範囲でゆっくり息を吐く

自分を支える

休む、作業を区切る、分からない点を相談する

相手の事情を確かめる

「どこが難しかった?」と聞き、途中で決めつけずに説明を待つ

できる範囲で関わる

手伝えることを一つ選ぶ。難しいときは、限界や必要な助けを伝える

 *正式なCCTの手順や教材を再現したものではありません。


 

7.自分や他人への向き合い方を振り返る

 自分や他人に対して、どのような向き合い方をしているか、少し振り返ってみましょう。ここ1〜2週間の中で、失敗したときや、誰かと比べて焦ったときのことを思い出してみてください。


 以下は、診断や点数づけをするためではなく、普段の考え方や行動傾向に気づくための、簡単な確認項目です。


自分に対して

  •  ミスをすると、「こんなこともできない」と、自分全体を否定する。

  •  成果を出しても、「まだ足りない」と感じ、休むことなく努力を続ける。

  •  SNSを見て焦りや不安を感じ、安心するために何度も確認してしまう。


他者に対して

  •  相手のミスを見ると、事情を聞く前に「責任感がない」と判断する。

  •  相手の事情を理解しようとすることが、「甘やかし」のように感じられる。

  •  改善を求めるとき、具体的な依頼よりも、不機嫌な態度や皮肉が先に出る。


 いくつか当てはまる項目があったとしても、自分を責める必要はありません。大切なのは、「どんな考えが浮かんだか」「そのあと、どのように行動したか」「次は何を一つ変えられそうか」を振り返ってみることです。


 厳しい考えが浮かぶこと自体は、誰にでもあります。そうした考えに気づいたときに、いつもより少し長く立ち止まってみる。そうした小さな変化も、コンパッションを育てる大切な一歩です。



8.不完全さを受け入れるために

 SNSやAIによって、他者の成果や、整えられた文章・画像に触れる機会が増えました。その一方で、「もっとよくできるはず」と自分や他者に厳しくなってしまうことがあります。だからこそ、うまくいかなかったときに、自分や相手とどう向き合うかを考えておくことには意味があります。


 自分を責め始めたら、いったん手を止めて、必要な助けを得る。相手に苛立ったら、その勢いで言葉をぶつけるのではなく、まず何に困っているのかを確かめてみる。コンパッションは、こうした小さな行動の中で育っていきます。


 目指したいのは、いつでも優しく、正しく振る舞えることではありません。うまくいかないときに、立ち止まって、次の一歩を選べるようになることです。


 自分も相手も、いつも完璧ではありません。不完全さを過度に責めるのではなく、その中でできることを一つずつ見つけていく。そうした姿勢が、自分や他者とのほどよい関わりにつながっていくのだと思います。


 

参考文献・参考資料

  • Curran, T., Hill, A. P., & Pose, P. M. (2026). Perfectionism is accelerating over time: A cross-temporal meta-analytic review of 35 years of college student data. Psychological Bulletin, 152(3), 255–287.https://doi.org/10.1037/bul0000518

  • Przybylski, A. K., Murayama, K., DeHaan, C. R., & Gladwell, V. (2013). Motivational, emotional, and behavioral correlates of fear of missing out. Computers in Human Behavior, 29(4), 1841–1848.https://doi.org/10.1016/j.chb.2013.02.014

  • Piko, B. F., Müller, V., Kiss, H., & Mellor, D. (2025). Exploring contributors to FoMO (fear of missing out) among university students: The role of social comparison, social media addiction, loneliness, and perfectionism. Acta Psychologica, 253, 104771.https://doi.org/10.1016/j.actpsy.2025.104771

  • Gilbert, P. (2009). Introducing compassion-focused therapy. Advances in Psychiatric Treatment, 15(3), 199–208.https://doi.org/10.1192/apt.bp.107.005264

  • Neff, K. D. (2023). Self-compassion: Theory, method, research, and intervention. Annual Review of Psychology, 74, 193–218.https://doi.org/10.1146/annurev-psych-032420-031047

  • Ferrari, M., Yap, K., Scott, N., Einstein, D. A., & Ciarrochi, J. (2018). Self-compassion moderates the perfectionism and depression link in both adolescence and adulthood. PLOS ONE, 13(2), e0192022.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0192022

  • Center for Compassion and Altruism Research and Education [CCARE]. (2016). Compassion Cultivation Training – Spring 2016 – Saturday Mornings – Robert Cusick. Stanford University.(2026年9月10日閲覧)スタンフォード大学 CCARE 講座案内

  • Jazaieri, H., Jinpa, G. T., McGonigal, K., Rosenberg, E. L., Finkelstein, J., Simon-Thomas, E., Cullen, M., Doty, J. R., Gross, J. J., & Goldin, P. R. (2013). Enhancing compassion: A randomized controlled trial of a compassion cultivation training program. Journal of Happiness Studies, 14(4), 1113–1126.https://doi.org/10.1007/s10902-012-9373-z

  • Wakelin, K. E., Perman, G., & Simonds, L. M. (2022). Effectiveness of self-compassion-related interventions for reducing self-criticism: A systematic review and meta-analysis. Clinical Psychology & Psychotherapy, 29(1), 1–25.https://doi.org/10.1002/cpp.2586


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